民主主義の危機!? 2010年フィリピン大統領選挙

 今日はフィリピンの大統領選挙です。歴代15代目の大統領が選ばれます。 


 では、まずフィリピンの政治制度の復習をしてみましょう。  
 フィリピンは大統領制(任期6年、再選禁止)と二院制(上院:定員24人、全国一区制、任期6年、3年ごとに定員の半数が改選、連続3選は禁止。下院:定員250人以内、小選挙区制、任期3年、連続4選は禁止)を採用。国民の直接選挙で大統領が決まります。 

 今回は9人が大統領に立候補しています。ベニグノ(ノイ・ノイ)・アキノ(自由党)が最有力。彼の父親はマルコスの政敵として1983年に暗殺されたニノイ・アキノ、母親はコラソン・アキノ元大統領ですから、本人のパーソナリティよりも民主主義のシンボルともいえる両親にあやかり、彼の名を全国に轟かせています。 
 次は、マニラのスラムから身を興してフィリピン有数の不動産王となったマニー・ヴィリヤール(国民党)。 
 そして、不思議なことに、庶民の味方だったはずが、不正蓄財疑惑で退陣したエストラーダ元大統領も立候補していて、3番目に人気です。
これまでフィリピン大統領選挙についてはあ日本語ではあまり報道されてきませんでした。注目されなかったみたい…。ようやくNHKが昨日からニュースを流し始めてます。
 
今回の下院の選挙にはイメルダ夫人(マルコスの妻)、アジア人で初めてメジャー世界タイトル5階級を制覇し、国民から絶大な人気のマニー・パッキャオも出馬しています。
報道でも候補者のきらびやかな経歴が個人の政策よりも注目され、まるで有名人の人気投票かのようです。
 
 パッキャオをしならないとフィリピン通とはいえなそうなので、以下紹介。 
 
マニーパッキャオ ウキペディア英語版
 
パッキャオ ウキペディア 日本語版
 
パッキャオの出馬に関する記事


 今回の選挙のポイントを真面目に考えてみました。すると以下の3つ+電子投票の問題が浮き彫りにされてきます。
①この人気投票のような選挙はなんなのでしょうか。
 アラフォー世代以上の人々が思いだすのは、公正や正義のために人々が立ち上がった「あの1986年の二月革命」です。でも、やはり革命は一瞬のきらめき。革命の本質を制度化して日常の議会政治で実現してゆくことは難しかったのだと思います。
  革命後、議会には地主層が舞い戻り、アキノ大統領も地主階級出身ですから、農地改革など富の再配分を根本から変えることは出来ません。マルコスという独裁 者を自分たちの手で追い出したという誇りや自信をつけた国民は、そこに苛立ちを感じ、選挙で突然の「チェンジ」を求めます。特に貧困層はカリスマ性のあ るエストラーダ、マニラのスラムから成り上がったヴィリヤールにチェンジを期待して、あるいは単に投票したら報酬をくれる候補者をかつぐ投票行動をしがち です。
 フィリピンの現状は参加民主義ではなく、ポピュリズムや衆愚政治(デマゴーク)に陥っているとも解釈できてしまうような段階です。BBCニュースは、ヴィリヤールはタイのタクシン元首相のように、貧困層から圧倒的な支持を得ると報道してます。
②フィリピン選挙の伝統といわれるgun(銃) goon(私兵)、 gold(金)、patronage(パトロネージ)pay-off(報酬)、personality(パーソナリティ、「3G」と「3P」の問題がいまだに根強い。

 これを防ぐために、ボランティアによる選挙監視活動やワークショップやセミナーを通して有権者教育、銃の不法所持取り締まりも行っているにもかかわらず・・・・
 昨年11月にミンダナオ島マギンダナオで選挙をめぐって57人が虐殺された事件を皮切りに、今年の1月から427日までに全国で約33人が死亡、銃の不法所持で2000人が逮捕されています。
③ 大統領候補者たちの政策が選挙の争点となっていない。
 ノイ・ノイは二月革命のシンボルカラーだった黄色を使用し、「汚職反対・貧困をなくそう」をスローガンに掲げています。汚職がなくなれば毎年約60億ドルを国家予算に使えると言っていますが、汚職をなくすための具体的な政策や制度設計についての発言が聞こえてきません。他の候補者も似たりよったりです。


恵泉女 学園大学 堀芳枝

不況の中で海外依存深めるフィリピン政府

フィリピンから海外に移民する人は多い。歴史的にアメリカへの移住が多かったが、1970年代から中東、80年代から香港、シンガポール、日本などへ出稼ぎに行く人々が増えた。国内で十分な収入を保証する仕事につけず、家族の生活を支えるため、フィリピン人多数が海外に就労していった。1984年年間35万人程度だった労働者の派遣は2008年には130万人を超えた。2007年、船員を含め、本国外で暮らすフィリピン人移民、労働者は8990万人に達し、総人口886万人の10%以上となった。そうした在外フィリピン人からの家族や親族あての送金は2007年144億ドルに及び、フィリピン国家が外国から受け取る政府開発援助額96億ドル、外国企業による直接投資額31億ドルを大きく上まっている。

 かくして、フィリピン経済は大きく送金に依存する。仕送りを受けた家族や帰国した労働者が土地や住宅を買い、不動産業の繁栄につながっている(“OFWs boost Robinson Land housing sales,”PDI, 11 April 2008)。国内各地で増え続けるショッピングモールも送金経済が大きく支えている。

 しかし、2008年秋からの世界不況の中で、海外で解雇されるフィリピン人が増えてきた。中東ではドバイを含むアラブ首長国連邦UAEでフィリピン労働者1000人以上が解雇された。UAEの建設事業を支えた投資家が米国の銀行から融資を受けてきたためで、米銀の金融引き締めにより建設ラッシュがとまり、建設労働者が解雇されたのだ。(PDI,15 October 2008 )

RP workers in Dubai may face layoffs(Global Nation )

Laid-off OFWs in Dubai get support(abs-cbnNEWS.com)


台湾でも2008年10月から2009年1月までに輸出向けエレクトロニクス産業95社でフィリピン人労働者4740人が解雇されたという。(MT 27 February 2009)

Taiwan heads off layoffs of OFWs

多数が帰国した。日本でも日系ブラジル人とともに、日系フィリピン人やフィリピン人労働者が派遣切りされている。1月、トヨタ自動車の本社がある愛知県豊田市で、市とトヨタ公共職業安定所が外国人・雇用・生活相談会を開くと、56組が来訪し、仕事探しや賃金未払いの相談が続いた。相談に来たフィリピン人男性(45)は昨年末に市内の自動車部品会社を解雇された。現在、派遣会社の寮にいるが月末に退寮しなければならず、「仕事と住むところを探している。フィリピンに戻っても仕事はないし、日本で働きたい」と話したという(『中日新聞』、2009年1月31日付)。筆者の知る範囲でも岐阜の日系フィリピン人が派遣契約を切られ、求職を余儀なくされた。愛知の超過滞在フィリピン人夫婦も解雇され、帰国の途に着いた。

 他方、フィリピンで操業する外資系企業も不況対策として、雇用削減、操業時間の短縮を活発化させている。輸出産業である半導体、エレクトロニクス、衣料などで事態が深刻であり、他国への事業移転、工場の閉鎖もみられる。世界最大のマイクロ・プロセッサー企業、米国インテルは08年11月1800人を解雇し、09年にはマニラ郊外の工場も閉鎖する予定である。09年3月、日系・富士通コンピュータ・プロダクツも労働者1750人を削減すると発表した。

Japanese companies in RP lay off workers(GMANews.TV)

国家経済開発庁NEDA長官ラルフ・レクトは世界的不況のため、フィリピンでは80万人の労働者が失業するだろうと述べたNEDA策定の「中期フィリピン開発計画2004-2010年」では年間最低100万人の雇用を生み出すと公約していたが、レクトによれば、本年100万人を雇用するという政府目標は困難で、50万の雇用がせいぜいだろうという(MT,3 February 2009)

800,000 jobs at risk – Recto Asian countries reel from global financial crisis(The Manila Times)

こうした状況にフィリピン政府はどう望んでいるか。労働相談や職業訓練も行っているが、どうも、海外雇用への期待が依然として強いようである。

3月、グロリア・マカパガル・アロヨ大統領はマニラの海外雇用フォーラムで述べた。「在外フィリピン人には50万の仕事が待っている。だから、海外の需要に対して労働者の技能を適合させることが大事である」と。政府の関連機関に労働者の訓練、再訓練、海外雇用に結びつく技能の養成を命じた。(MT, 3 March 2009)

500,000 overseas jobs available for Filipinos(The Manila Times)

国内雇用は50万人が関の山、というレクトの指摘を受け、国内の雇用の不足分を海外で補おうという趣旨である。

また、大統領は海外就労を監督・統制するフィリピン海外雇用庁に関しても、行政命令247号を発し、パラダイムを転換し、統制ではなく、労働者の海外市場を最大限開拓するように命じた。(PDI, 23 January 2009)

NGOs oppose Arroyo order to market OFWs(Global Nation)

フィリピンの人々が国内で家族一緒に落ちついて安らかに暮らす。

そうした条件を提供するのが政府の義務である。しかし、送金に依存した経済をもはや肯定した政府はさらに労働者を海外に派遣しようとする。

 政府の送金依存について、民間の研究機関イボンは批判的である。「送金への過度の依存について、政府は批判を受けてきた。しかし、政府は海外労働者の安定した流入が不況から国内経済を守ってくれると依然期待している。海外労働者の送金と収入が危機に瀕している現在、その期待の誤りは明らかである。海外からの送金が開発のための魔法の弾丸だという神話をつくり上げた政府にとって、今の状況は目覚めよという警鐘となっている。」

OFW Remittances Amid Crisis: Government’s Dependable Source Faces Challenges(IBON INFO)

 イボンは国内に地盤をもった持続可能な成長が求められると提唱する。フィリピンのNGOも「海外市場に依存した経済ではなく、国内経済を強化し、完全な雇用を生み出すべきである」と主張している(前掲PDI 23 January 2009)。こうした国内経済の強化ひいては自立的な経済の樹立こそ、今、求められる。イボンが呼びかける「目覚めよという警鐘」にフィリピン政府はいつ答えるのであろうか。

 

フィリピン新聞略称

MT=Manila Times

PDI=Philippine Daily Inquirer

名古屋学院大学 佐竹眞明

「人権から考える平和」

Inquirer Opinion/columns  by kristian Herbolzheimer 11/17/2008

the author is a research fellow at the initiatives for International Dialogue.

  

「人権から考える平和」

ミ ンダナオでは依然として停戦や和平交渉の途にあり、多くの人々が内戦に苦しんでいる。この数週間で約50万人の人々が緊急避難をしている。それなのに世論 も政治家もこの問題についてあまり関心がない。ミンダナオでの暴力は日常的なこと、仕方がないことと考えられているが、その考えを改めなければならない。

 

政府はモロイスラム解放戦線(MILF)の司令官カト(Kato)とブラブォ(Bravo)を人権侵害の罪で逮捕しようとしているが、その政府軍が市民たちの日常生活を脅かし苦しめているのだ。皮肉なことに、人権を擁護するための活動が、人権侵害を引き起こしているる。

 

しかし、政府もMILFも暴力をストップし、信頼関係を築き、市民に対する凶悪な行為をなくすために、国連の世界人権宣言や国際人権法などの国際的な人権基準での解決を計ることに解決の糸口がある、と私は考える。

 

MILFは武力闘争が経済的ダメージをもたらし、人々の命を奪うばかりか、長年培った市民との信頼関係も損ねることは承知している。

に もかかわらず、なぜ停戦が実現しないのだろうか?政府は中立的な調査団を結成し、真相と実態の究明をおこなえないのだろうか?紛争から和平への過渡期にお いては、司法の手続きよりも正義の問題が重要になる。人権侵害の究明こそが、対話や信頼関係再構築、交渉において重要な切り札となるはずだ。

 

ただし、ここで問題となるのは、誰が調査して、政府やMILFに人権侵害の罪を認めさせることができるのか、という点である。たとえば、マレーシアを団長として、ブルネイ、リビヤや日本などをメンバーとする国際的な調査団を結成したらどうだろうか?

 

ここ数週間、市民団体は停戦を求めているが、実現していない。もう少し大規模で本格的なキャンペーンを実施する必要があるだろう。Bantay Ceasefire(注) やアムネスティなどは独自に調査団を派遣している。

 

ま た、ASEANや国連にも和平を仲介してもらうことも視野に入れたらどうだろうか。国連はフィリピンの国家人権委員会などを高く評価している。ASEAN の加盟国からなる国際調査団を結成し、政府とMILFの仲介役になってもらう、国連に介入してもらう、国連人権委員会を招くとか、紛争解決の手段はいくつ かあるはずだ。

 

フィリピン政府はこうした和平のプロセスを国際化することに躊躇 いがあるだろうが、フィリピンは和平や人権の分野において先進的な役割を果たそうともしている。たとえば、暴力を減らし、人間の安全保障を発展させるよう 宣言した「武装暴力と開発についてのジェノバ宣言」の主旨をフィリピン政府は受け入れようとし ている。また、政府は新しい暴力を防ぐために、国連の「保護する責任」という主義にのっとって隣国にも協力を仰いでいる。

 

ミンダナオの人権侵害の問題は軍とMILFなどとの衝突の原因であり、結果でもある。

ミンダナオの紛争の解決は難しいけれども、この人権問題について国連や他の国もかかわることによって、その糸口が見出せるのではないだろうか。

 


(注)政府とMILFの休戦協定を監視している草の根NGO

恵泉女学園大学 堀芳枝